もう、四十年以上前の話。(古過ぎるね)
友達がギターを始めたのに触発され、自分もギターを弾き
始めました。
簡単な循環コードだからという事で、井上陽水の《夢の中
へ》を最初に覚えたんですが、あれから四十年。私の音楽生
活の中心は、井上陽水でした。
最初に、陽水を意識したのは、ギターを始める前年、兄の
カセットテープに入っていた《御免》を聴いた時でした。
衝撃でした。
「なに、これ?」
なんにもないけど 水でもどうです
せっかく来たのに なんにもないので 御免
「なんて、歌詞だ!」とまず思って、アレンジも凄くっ
て、リードギターもメチャクチャカッコよくて、歌詞のフォ
ークっぽい日常性と、曲のギャップが不思議な感じに絡み合
って、「鷲づかみ!」でしたね。
それからギターを覚え、さらに陽水の世界に嵌まり込み、
今に至っています。
陽水さんのスタイルを一言で言うと、「怪しむ」というこ
とになると思いますが、そんなことはファンなら百も承知の
ことで、今さら言うまでもない。
それは、陽水さんの話し方にも表れていて、“話をはぐら
かす”、“話を途中で止める”、“話がずれてゆく”といった特
徴があって、まず結論に至らない。「言い切ること」「結論
を出すこと」に対する、本能的とも言える危機感・羞恥心・
罪悪感を持っている様に思います。
歌詞となると、それは更に精製され、「棚上げ」「宙ぶら
りん」「ベールに覆われ・・」といった様相を呈します。
《ビルの最上階》で歌われる、世の中の胡散臭さ。
《ジャスト・フィット》で主人公が嵌まり込む、抜き差し
ならない、説明の無い結論。いつのまにか道が決められ、男
と女のそれぞれの狂気が絡まり合って加速して行く。
《長い坂の絵のフレーム》では、「ホントはどうなの?」
という、陽水さんの皮肉で優しい笑みが浮かんで来ます。
そもそも《長い坂の絵のフレーム》ですよ!
普通なら《長い坂の絵》でいいんですよ。ところが、陽水
さんの場合だと、そこに《フレーム》が付く。
常識人が考えると、《長い坂の絵》が人生な訳です。しか
し、陽水さんからすれば、《絵》はうたかたのお約束で、ま
さしく“絵空事”。本来は空っぽの《フレーム》の方が人生で
あり、自分だと。
フレームには、意味もなく、訳もなく、その中で人々は悲
しんだり、しあわせだったりと意味を描く。
陽水さんは絵の外に居る。絵の中に安住していられない。
なぜ、陽水さんは絵の中に居られないか?
ころがってしまうんです。定着できない。
陽水さんの歌詞の中に、「ころがる」という言葉が何度と
なく使われます。2000年代に入って減りましたが、陽水さ
んが多用する言葉です。
「愛」とか「恋」とか「夢」とかは、どんな作詞家も多用
しますが、「ころがる」なんて言葉は百曲に一曲ぐらいしか
使わないと思います。ところが陽水作品では、たぶん二十曲
以上の作品で使われているでしょう。今まで発表した曲は、
三百ぐらいでしょうから、かなりの頻度です。
どういう訳で、“ころがっちゃう”んでしょう?
陽水さんの話には、結論がありません。
世の中では、曲がりなりにも結論というものが用意され、
人々はその結論に立って次へ動く、ところが陽水さんから見
ると、その結論は頼りないものにしか見えない。傾いてい
る。当の本人たちは、自分で動いている様に思っているけれ
ど、陽水さんから見れば“ころがっている”。
人間だけではなく、あらゆる物は“ころがっている”、“こ
ろがり続ける”。
《 世界は勾配によって動く 》と前に書きましたが、も
しかすると陽水さんの影響かも知れませんね。
「あらゆる物が、ころがり続ける」というのは、要するに
「諸行無常」ですね。
その輪廻の坂道から逃れるには、《長い坂の絵》からフレ
ームアウトするしかない。
探し物はなんですか? 見つけにくい物ですか?
カバンの中も机の中も 探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか? それより僕と踊りませんか?
夢の中へ 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか?
Ufu-fu Ufu-fu さあ
休むことは許されず 笑うことは止められて
這いつくばって 這いつくばって
いったい何を探しているのか?
探すのをやめた時 見つかることもよくある話で
踊りましょう 夢の中へ 行ってみたいと思いませんか?
Ufu-fu Ufu-fu さあ
陽水さんの、初期の曲はストレートな表現が多いですが、
やがて、意味不明の言葉が飾られるようになって来ますね。
でも、その言葉は“財宝の在りかを示す暗号”のようなもの
で、最後まで辿って行くと煌めく宝石に巡り合います。
井上陽水ほど、その才能を輝かせ続けたソングライターは
いませんね。30年以上の永きに渡り、ハイレベルの作品を
生み続けた。「才能がある」といわれる人でもピークは4~
5年です。天才ユーミンでも、20年ぐらい。(それも凄い事
です!)
井上陽水は、まぎれもなく“日本のミュージックシーンの
巨人”です。
ここに、感謝と敬意を表します。
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