2017年7月19日水曜日

キノコの世界


 ゆうべ、NHKで「キノコの世界」という、科学ドキュメ

ンタリーを見ました。確か、BBCの制作だったと思います

が、この手の自然科学物を作らせたら、BBCの独壇場です

ね。ナショナル・ジオグラフィックやディスカバリーチャン

ネルも良い物を作りますが、映像の美しさ・見せ方では、や

はりBBCが一枚上でしょう。デビッド・アッテンボローさん

は、お元気なのでしょうか?


 番組の中でもその生態が詳しく描かれていましたが、キノ

コ(菌類)という生き物は、植物や動物のからだを、バラバ

ラに分解するのが主な “お仕事” です。

 植物は、太陽のエネルギーを使って炭酸ガスから有機物を

作り出す生命システムで、生物学では “生産者” と呼ばれま

すね。動物は、植物が作った有機物を取り込んで、物理的に

分解し、地球上に拡散するシステムです。“消費者” と呼ば

れますね。(消費する事より、有機物を拡散する事の方が重

要に思います。“拡散者” とした方が良いと思いますが)

 その、植物と動物のからだと、動物が物理的に分解した有

機物を、植物が再び利用できる形にまでバラバラに分解する

のが、菌類の仕事です。“分解者” と呼ばれますね。

 ここまでは、中学で習う事だと思います。「生物」の授業

が嫌いな人でなければ、ご存じの事です。


 さて、ここからが、昨日番組を見ていて思ったことなんで

すが、植物・動物・菌類ともに、それぞれの法則性・規則性

によってその形態を保っています。それぞれが、それぞれな

りの秩序を持っていて、その形態は “秩序の形” と言えま

す。

 太陽光線と炭酸ガスという “無秩序” を、植物がまとめ

て“秩序” を与え、動物はその形を変えて拡散する。

 そして、菌類はその “秩序” をもう一度 “無秩序” に戻す

役割を担っている。

 太古の昔から、植物・動物・菌類が協力して、太陽エネル

ギーを有機物という形に固定し、地球上に広く薄く分散させ

ている様ですね。

 菌類が分解しきれなかった(しきらなかった?のかも!)

大昔の有機物は、地下に格納されて、石炭・石油・天然ガス

として保管されてきた。

 地球環境の恒常性を保つ、見事なシステムですね。(人は

それを掘り出してしまいましたが。パンドラの箱を開けたの

でしょうか?)


 こういう事を考えると、いつも驚いてしまいますが、今回

特に思ったのが、“秩序” と “無秩序” の関係です。

 エントロピーの法則によって、“秩序” は “無秩序” になろ

うとするわけですが、“秩序” と “秩序” を組み合わせて、

“二次的な秩序”を作ることは出来ても、“秩序” から直接

の “秩序” を作ることは出来ない。必ず、一度 “無秩序” 

しなければ、違う “秩序” は作れないので、“秩序” が “無秩

序” になるのは、新たな “秩序” を作る為の準備のようにも

思えます。

 そして菌類は、“無秩序” を作る為の “秩序” なんだなと。


 要するに「壊さなければ、作れない」という単純な話なん

ですが、人間は「計画的な破壊」は当然容認しますが、「予

定外の破壊」は受け入れません。

 しかし、自然界には「破壊するための “秩序”」が存在す

る。「新たな秩序」を作る為の破壊が。

 家がシロアリに喰われて倒れるのは「予定外の破壊」です

が、自然からすれば、次の “秩序” への準備となる、秩序立

った行為です。

 自然は、ただ漫然と無秩序になって行くわけではない。


 “秩序” は「秩序立てて」“無秩序” を作り、“無秩序” か

らしか “秩序” は生まれない。「エントロピーは増大し続け

る」という法則は本当だろうか? 本当はこの世界の様態

を“秩序” と “無秩序” に分けてはいけないのではないだろう

か?

 「キノコの存在理由」といった事を考えていると、「“無

秩序” さえ、“秩序” の一部」と思えて来ます。

 “秩序”と “無秩序” を越えた、高次の〈秩序〉が在るよう

に思います。それを〈神〉と呼ぶつもりはありませんが、ヒ

ンドゥー教のシヴァ神(破壊と再生の神)をイメージしてし

まいます。


 破壊と再生。

 死と生。  

 それは、あくまで “個体” から見たものであって、世界の

中にあっては、さざ波の様なものでしかない。

 わたしたち人間は、破壊や死を怖れるけれど、それはエゴ

が世界から乖離したものであることを証明してしまっている

のでしょう。〈死〉は、個人にとっては「想定外」でしょう

が、〈世界〉にとっては、当たり前に「予定」に入っていま

す。

 「自分は、自分は・・・」と言い立てるその都度、わたし

たちは、人の世だけでなく〈世界〉そのものからも、はぐれ

て行くのでしょう、そう遠くない将来〈世界の秩序〉によっ

消えてゆくことを忘れて・・・。



 キノコが働く世界は、わたしたちにとっては「死後の世

界」です。

 あなたや私が死んだ時、浄土から舞い降りて来るのは、天

女ではなく、菌類の胞子かも知れませんよ。いや、生物学的

には、間違いなく胞子です。

 わたしたちは、ただ身をまかせるだけです。




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