2019年6月5日水曜日

『拡大自殺』なんて、お手軽な言葉を使うんじゃないよ。



 “引きこもり” の人が関わった事件が相次いで、“引きこも

り” に対する偏見というか無理解が、「悪意」に変質しそう

な雰囲気が出て来ているようですが、少し前に私は、『引き

こもって当たり前じゃない?』(2019/4/4)という話を書

いた。

 「“引きこもってる人” が異常なんじゃなくて、この社会

が異常であり、その社会に適応できている人の方が異常なん

だ」という話だったんですが、社会適応出来なくて、その挙

句に無差別に人を殺すなんて言うのは、もちろん異常に決ま

っている。断罪されて仕方がないのですが、この犯人が異常

な行動に出たのは、この社会の異常さが、その人間を通して

表に出て来たということだと思っています。それが今回はた

またま “引きこもり” の人だったということですよ。


 これまでにも、無差別殺人や通り魔殺人は何度となく起き

て来たけれど、昨日まで普通に働いていた者が起こすケース

もある。

 あきらかに社会適応出来ていなくても、表面上社会適応出

来ていながら内面的には強いストレスを抱えている場合で

も、その「不適応」が閾値を越えてしまえば、人は自身のコ

ントロールを失って暴走する・・・。殺人、自殺。


 今回は、心理学者と称する人間が、『拡大自殺』などとい

胡散臭い概念をマスコミ向けに出したこともあって、いろ

いろ騒ぎになっているようだけれど、あんな言葉は、人を理

解するためのものではなくて、適当な所で思考停止して楽す

る為にあるようなものでしょう。


 殺した方も、殺された方も、それぞれ一人の人間ですよ。

 殺した方と殺された方のどちらをも “人間” として並べる

と、怒る人がいっぱいいるでしょうが、それぞれに無限の因

果の働きに動かされた結果として、殺す側になり、殺される

側になってしまったのですよ。『拡大自殺』なんてひとつの

お手軽な言葉で括って楽しようとしないで、ちゃんと自分の

心の動きとシンクロさせて、殺した側の狂気と、犠牲になっ

てしまった側の恐怖や無念を「感じ取ろう」「理解しよう」

とするべきですよ。

 『拡大自殺』なんて、そんな言葉を使った瞬間に、他人事

になるんですよ。


 そりゃぁ、他人事なんですよ・・。当事者の気持ちにはな

れない・・。けれど、言葉で簡単に括らずに、できるだけ心

をシンクロさせて、その人間の想い・在り方を解ろうとする

のが、あのような出来事との誠実な関わり方なんじゃないだ

ろうかと思うんです。


 そりゃあ、殺された方が気の毒ですよ。家族はたまらな

い。冷静に受け止めることなんか出来なくて当然。そんなこ

とは、普通の人であればさしあたり想像がつく・・。想像が

つくだけで、同じ想いになれるわけではないけれど・・・。

 でも、考えてみて下さい。自分ならば、今回の事件の犯人

になるか? 被害者として死んでしまうか?どちらがマシで

すか?


 こんなことを言うと、烈火のごとく怒る人が沢山いるので

しょうが、犯人と、犠牲になった人と、それぞれの心に自分

の心をシンクロさせようとした場合、犯人の心にシンクロさ

せた場合は、とてもじゃないが “地獄” ですよ・・・。犠牲

になった人の心の方が、まだ救いがある・・・。


 こんな話、受け付けられない人もいるでしょうが、犠牲に

なった人と、その人の家族といった当事者の “救い” がある

とすれば、まさにそこに在るはずなんです。


 同じように人として生まれて来て、「人を殺す」というさ

だめになった人と、「殺される」というさだめになった人

と、どちらも望んだことではないはずですよ。

 「人を殺す」さだめになった人は、「人を殺してやろう」

という望みを持ったかもしれないけれど、生まれた時からそ

う思ったはずがない。なのに、「人を殺してやろう」という

衝動が自分の中に湧きあがり、実際に人を殺してしまっ

た・・・。いったい誰がそんな人間になることを望む? で

も、そういう「生」を生きることになる人がいる・・・。


 人は、止むに止まれず、望んでも望まなくても、自分のさ

だめを生きるしかない。

 「動機」だとか「理由」だとか、そんなもの探ってみて

も、上っ面の辻褄合わせでしかない。『拡大自殺』なんて言

葉を思い付いて、そこで思考停止して楽しても、人が生きて

行くことの「苦しさ」も「悲しさ」も、誤魔化し切れはしな

い。


 悲惨なことは起って欲しくない。

 ならば、その「悲惨」が味あわせるものを、どれほど苦く

ても、しっかりと味あわなければならないでしょう。誰もが

ね。

 言葉で辻褄合わせをするのではなく、苦しくても、気持ち

悪くても、あまりに悲しくても・・、心を開いてね・・・。



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