2022年7月8日金曜日

清き一票



 只今、参議院選挙の期間中ですが、「この候補者の言って

いることは自分にとっては不都合だけど、筋が通っていて国

の為になると思うので、私の一票を入れる」という有権者が

いると思いますか?

 いないでしょうね。そんな奇特な(奇妙なというべきか)

人がいたとしても、10万人に1人ぐらいだろうと思う。


 《 「正しい」とは、そういうことにしておけば気が済むと

いうこと 》なので、 選挙でそれぞれが票を入れるのは、自分

にとって都合がいい人であるというだけ。なので、当選した

顔ぶれを見れば、いまこの国に暮らしている人間たちの、エ

ゴの最大公約数のようなモノがそこはかとなく見てとれる。


 そもそも、みんなわけが分かって生きているわけではない

ので、この国や世界とって何が本当に良いことかなんて誰も

知らない。

 いまの世の中を鑑みて、「こうするのが良いはずだ」とそ

れぞれに思っているけれど、それが “いま” 本当に有効なこと

でも、半年後にとんでもない形で世の中が変わったら、裏目

に出てしまうかもしれない。政治もバクチである。特に人間

相手の度合いが増すほどそうなる。 


 「清き一票」と言ったりする。

 何が「清き」なのか? 金をもらって一票を入れたりしない

のが「清き」なのだろう。けれど、みんな自分に都合の良さ

そうな人間に入れるだけなのだ。それは直接的にではないに

せよ、自分の「欲」からの一票なので、「清き一票」と言え

るのかどうか・・・。


 より多くの有権者の「欲」を満たすことを言い、信用させ

た人間が当選するのが選挙というものだということを、わた

したちは認識しておくのが望ましいと思う。


 いったい何が正しいのか? 何が良いことなのか? そんなこ

と誰も知らない。知らないくせに政治をやろうとし、知らな

いくせに投票する。

 まぁ、致し方ないことではあるので批判する気は無い。た

だ、誰もわけが分かっているわけじゃないということは、分

かっていて欲しいと思うのです。


 ヒトラーを、ナチスを、怪物にしたのは当時のドイツ国民

です。

 群衆の力  「自分たちは正しい」という信念が集約した

時には、得てして怖ろしいことが起こるのは歴史上疑いが無

い。大きな、絶対的な「正しさ」が現われる時、その「正し

さ」は、「正しくない」と見なされるものを徹底的に排斥す

る。それだけの力を持ってしまう。“数” の力は、倫理も合理

性も人間的で本質的な感性もなぎ倒す。“数” が「正義」とな

る。


 独裁や専制主義では、軍事や政治的な数が力となる。

 民主主義では、賛同の数が力となるけれど、結果的に一部

の考えに集約され、専制や独裁の様相を呈することになる。

 資本主義では、金の数が力となり、経済的影響力を持つ者

が社会を動かす経済専制になる。

 社会主義・共産主義では、力が均等に配置されるようなシ

ステムが作られ、数は平準化されるが、そのシステムを管理

する者に力が集まってしまい、結果的に独裁・専制になって

しまう。
 

 人が集まれば、その “数” の力はどうしてもある場所に集中

し、権力が生まれる。それは避けることができない。それは

社会というものの宿業だ。

 エゴは、自分を「(他者より)価値がある存在」であると

思いたいものだし、自分の在り方を揺るがすような存在は受

け入れない。

 社会というものは、エゴの肥大化したものであるから、ど

んなに理想を目指そうと、「平等な社会」は存在し得ない。

「多様性を受け入れる社会」も、あるレベルを越えると壁に

ぶちあたる。


 私が選挙に出るなら、「みなさん、あきらめてね」と言い

たい。


 あきらめた上で、わたしたち人間の、わたしたちのエゴの

どうしようもなさを徹底的に意識しながら、おっかなびっく

りで社会を動かしてゆくのが良いだろうと。

 「理想」という、エゴが語る美辞麗句を真に受けたりしな

いで、エゴが語りたがらない、わたしたちの「出来の悪さ」

を噛みしめながら、「出来の悪さ」にこそ寄り添いながら、

満足を求めるのではなく、「満足すること」を一人一人が身

に着けてゆくのであれば、社会が人の為のものになる日が来

るかもしれない。あくまでも、「かもしれない」というだけ

なんだけど・・・。


 私の「理想」はどこかの誰かの邪魔になるだろう。

 私の「望み」はどこかの誰かが嫌がるものになるだろう。

 私の「一票」は、社会の何百万分の一かを不快にさせるだ

う。それは「清き一票」といえるのか?


 「理想」を語る人たちを前にして、私の「一票」はいつも

虚空をさまよう。



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