2022年7月29日金曜日

死刑が生み出すもの・・



 十数年前に秋葉原で無差別殺傷事件を起こした男の死刑が

執行されたというニュースがあった。

 私は条件付きの死刑反対派(容認派だろうか?)だ。その

条件や、死刑に関する私の考えは、以前『なぜ人を殺しては

いけないか』(2017/3)という回で述べているので、気が向

けば見てもらえればなと思う。死刑に反対する人で、私のよ

うな理由を述べる人はまずいないだろうから、興味深いだろ

うと思うし、きっと「そう言われればそうだよなぁ」と感じ

てもらえると思うのでおすすめしておきます。で、この度の

ニュースをきっかけに、私の中から出て来る話を綴っていく

ことにしましょう。


 無差別殺傷事件や妄想に囚われての理解しがたい殺人事件

というのは、私の生きて来た間に起きたものでも、かなりの

件数になることだろうと思う。しばしば、そういう「異常」

が起きることは、少なくともこの半世紀程の日本では「通

常」だと言える。


 アメリカだとか、ましてや中南米だとかの殺人件数と比べ

れば、日本の「通常」は平和過ぎると言ってもよいぐらい

だ。ただ、それは出来事としてわたしたちが意識できる部分

の話であって、内面的な状況はまた別だろう。


 殺人がよく起こる国に住んでいれば、それなりの精神的な

負担があり、穏やかな気持ちを持つことは難しくなるだろ

う。一方で、殺人があまり起こらない国に住む人に精神的負

担が少ないかと言えば一概にそうとも言えないと思う。「殺

人があまり起こらない社会を維持するための負担」というも

のが有るだろうから、そこでもやはり、穏やかさを保つのは

難しいだろう。日本で、自殺や過労死や引きこもりなどが多

いのはそれを物語っているように思う。


 「殺人がよく起こることの精神的負担」と「殺人があまり

起こらないようにする精神的負担」が、同じだけの重さを持

つかどうかは分からないけれど、どちらにせよその負担は、

個人からその社会へ、社会からまた個人へと還流して行くは

ずだ。人の意識のエネルギーにも、熱力学の法則は適用でき

るだろうと私は考える。どのようなものであれ、エネルギー

の総量は変わらず、この世界を巡り続けて行くのだ。


 どのような社会でも、そこを循環するエネルギーには「解

放的エネルギー」と「抑圧的エネルギー」が有るだろう。

 社会の表層で、人のポジティブで発散的なエネルギーを受

け取って行く流れと、社会の暗部で人のネガティブに停滞し

たエネルギーを受け取って行く流れとがあるだろう。

 社会の表層の流れは、スポーツやエンターテインメントや

ビジネスの場に流れ込み、それぞれの場所でヒーローやアイ

ドルを生みだしたりする。一方で、暗部の流れは、今回死刑

に処されたような人間や、自殺者を生んで行く・・・。

 それは程度の違いはあるとしても、どんな社会でも避けら

れないことだろうと思う。わたしたちのアタマの総和である 

“社会” というものは、当然ながら、アタマの性質を反映して

しまうから。


 どんな人でも、自分を誇らしく頼もしく感じることが有る

だろうし、逆に自分を情けなく頼りなく感じたり、「死にた

い」とか「あいつを殺してやりたい」と思ってしまうことが

有るだろう。

 そのようなポジティブな思考・感情やネガティブな衝動

を、社会のエネルギーの流れが受け取りながら濃縮してゆ

き、それが閾値を迎えた時、そのタイミングでそこに居た人

間を通して、そのエネルギーは社会に溢れ出す。ヒーローが

誕生したり、むごたらしい事件を起こすものが現われた

り・・・。


 今回の死刑執行に具体的に関わった人たち、特に、執行し

た刑務官の精神的負担はどれほどだろう。その人たちにもた

らされた「抑圧的エネルギー」は、社会へ還流して行き、あ

らたな無差別殺人を生み出す “負のエネルギー” の一部になる

かもしれない・・・。
 

 物理的なものであれ、精神的なものであれ、わたしたち人

間は、この世界のエネルギーの循環を止めることはできな

い。流れを変えることはできるかもしれないが、そのエネル

ギーが行き着く先で、何が起こるかを知ることは出来はしな

いし、かえって大きな災いを生むかもしれない。


 遠くない将来に、不可解で痛ましい事件のニュースがまた

流れることだろう。自ら命を絶った人のニュースを目にする

ことだろう。が、“それ” を引き起こす力の一部が、“それ” 

を忌み嫌うことで生まれているのだとしたら?


 裁くこと、評価することの先に何が生まれるのか?

 残念ながら、そこに目を向ける人は多くはない。


 今回の死刑執行にあたった刑務官の嘆き苦しみを聞いてく

れる人はいるのだろうか?

 ご縁があるのなら、私は聞いてあげたいと思う。本気

で・・・。



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