2019年8月1日木曜日

真実は沈黙している



 《 真実は沈黙している 》


 この世界に存在するものは、何も語っていない。

 太陽も月も星も、木も鳥も虫も、石も水も風も、壁も電信

柱も、わたしたちの身体も、何も語っていない。ただわたし

たちのアタマだけが、エゴだけが、思考だけが語る。なぜな

ら、それは語ることでしか存在できないから。それには実体

が無いから。
 

 アタマは語る。存在しようと足掻いて、語る。沈黙するこ

とは消滅することだから、アタマは語り続ける。どんなこと

でもいい。とにかく語り続けなければならない。その語り

が、自己を肯定することであるならそれに越したことはな

い。自己を肯定できないのなら、他者を否定し、踏みつける

ことで自身の足場を固めようとする。とにかく語らなければ

ならない・・・。


 あるエゴから発せられた語りは、別のエゴに、あるイメー

ジを喚起させる。

 そのイメージは時にそのエゴを傷付け、時にそのエゴを調

子付かせ、ある時にはそのエゴが自らを肯定するための格好

のエサとなる・・・。そうして、存在し続けたがっている無

数のエゴとエゴが、駆け引きと馴れ合いと闘争と失望を繰り

す。なにものも顧みずに・・・。それは幻想。それは狂

気。それは地獄を生み出しもする。


 真実は沈黙している。

 真実には語る必要がない。

 そこに “在る” のだから、何を証明する必要もないし、何

かを得ることも何かを為す必要もない。


 この世界、宇宙全体に、空間と静寂が透徹している。

 「無いこと」と「止まっていること」が、この世界のベー

スとしてある。

 その空間と静寂の中で、あらゆるものがその存在を存在し

ている。それはまるで空間と静寂を楽しむかのよう。


 存在し、動くことで空間と静寂を確かめ、空間と静寂の絶

対性に遊ぶ。それは至福。

 けれど、語ることは空間を区切り、限定する。静寂を破り

台無しにする。真実を隠し、妄想の中に迷わせる。


 空間は沈黙している。

 静寂は沈黙している。

 存在は沈黙している。

 真実は沈黙している。
 

 ただわたしたち人間のエゴだけが、おしゃべりとカラ騒ぎ

をし続けている。消え去ることへの恐怖ゆえに・・・。





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